健康、おいしい、簡単! 本格和食を家庭にお届け
BentOn Kit

New Business Close Up
アメリカで新たな事業を手がける人物をクローズアップするインタビューシリーズ。

「栄養バランスの取れたおいしい和食を家庭で簡単に」。ニューヨークに4店舗を構える日本の弁当専門店「BentOn」が、10月20日から和食のミールキット「BentOn Kit」の販売を開始した。健康と安全に配慮した和食料理を、各家庭に配送するサービスだ。1食分まるっと入ったセットメニューと個別売りの惣菜メニューがあり、内容は2週間に1度更新される。管理栄養士監修のもと自社工場で作られた料理は調理直後に瞬間冷却・真空パックされるため、出来立てのおいしさを家で気軽に味わうことができる。

実家が東京の老舗弁当屋であり、現在はBentOnのオーナーを務める古川徹さんに、ミールキットの魅力やこれまでの苦労、今後の目標を聞いた。

デリバリー弁当からオンデマンドへ

オーナーの古川徹さん

BentOnは2006年、ニューヨークで小さな弁当屋FUJI Cateringを買い取ったところから始まりました。当時、ニューヨークには日本から単身で赴任した駐在員が大勢いて需要があったので、そんな日本人向けの弁当屋がすでにたくさんありました。私の弁当屋も3〜4年は売り上げも右肩上がりでした。しかし、リーマンショックによって駐在員が大幅に減り、売り上げも半分以下に。周りの弁当屋もどんどん減っていきました。

そこで、駐在員ではなくアメリカ人に弁当を売ってみようと思い、大幅に方向転換することにしたんです。社名もFUJI CateringからBentOnに変更しました。当初はデリバリー業だったのですが、アメリカ人は昼食のデリバリー弁当には全然食いつかず、まったく売れませんでした。デリバリーがだめならお店を出してみようと、店を買って店頭での販売を始めたらすごく売れたんです。ただ、リサーチをしたところ、弁当を買いに来るアメリカ人は皆、日系企業で働いている人たちでした。

本当の意味でアメリカ市場の顧客を獲得するため、今度は日系企業のいないウォールストリートに出店しました。しかし、ここでは再びまったく売れず、アメリカ人にとって弁当はまだ未知のものなのだと思いました。どうしたら売れるのか、対策を練るためにアメリカ人にリサーチをしたところ、2つのネガティブ要素が出てきたんです。一つは、日本の弁当はパックされているので食べたいものが選べないということ。もう一つは、温度がすべて常温なのが嫌だということでした。

温かいものは温かいまま食べたい、冷たいものは冷たいまま食べたい、そして好きなものを好きなだけ食べたい。それを実現するために、弁当オンデマンドというサービスを始めました。空の弁当箱にお客さんが選んだ好きな料理を詰めて販売する、ビュッフェスタイルのようなサービスです。これが大当たりでした。1つの箱でいろんな味を楽しめるというのが良かったようです。客の99%が日本の駐在員だった最初の頃からは一転、今は7割がNonジャパニーズになりました。

日本との違い

メニューは日本の弁当とほとんど変えていないです。それよりも、店頭での見せ方に気を使っています。うちの店に来る人たちは栄養成分やカロリーを気にかけている人が多いので、メニューに含まれている成分などをきちんと表示するようにしています。

あとは、保健所とのやりとりが大変でしたね。日本とアメリカでは保健所のチェック項目が異なるんです。日本の保健所は菌に厳しいのですが、アメリカでは温度に厳しいんですよ。いわゆる常温の食材は販売を認めてもらえないのですが、弁当はまさに常温の商品。ペナルティを何度も払いましたし、最終的には保健所の一番偉い人に直接交渉にも行きました。弁当たるもの常温でなければいけないということを切々と訴えたら、特別にうちの店舗だけ許可してもらえましたよ。

「BentOn Kit」は良いこと尽くし

真空パックで出来立てのおいしさを閉じ込めている

新型コロナウィルスの影響により在宅ワークやオンライン授業が増え、家で食事を取る機会が増えた人も多いでしょう。今年10月からスタートした和食ミールキット配達サービスBentOn Kitは、家庭での食事の負担を少しでも軽減できればと思い開発を始めました。

BentOn Kitでは、100%日本産米を使っています。弾力や香りなどがより良く、惣菜にも合いますから。野菜はできる限りローカルの食材を使っており、肉や魚も日系業者から厳選した安心できるものを仕入れています。よく聞かれるのですが、うちではオーガニックにはそんなにこだわらず、むしろウェルバランスを重視しています。アメリカではオーガニック文化が急速に成長していますけど、オーガニックが長寿につながるという結果はまだ出ていません。日本はこれだけ長寿国にもかかわらず、オーガニックにはこだわらずにこれまでやってきたんですよね。昔から日本で食べられてきたものって何だろうと考えた時に、やはり肉も魚も野菜もバランス良く食べることが大事なんじゃないかと思うんです。すでに日本で実証されているものを重視したほうが良いと、私は信じています。

一汁三菜を唱える管理栄養士に監修をお願いしていることも、BentOn Kitの大きな特徴です。弁当は食べる人自身が買うものですが、ミールキットは旦那さんやお子さんなど、家族に食べさせるために買うものになると思うんです。そう考えた時に、より安心して食べられるものを提供したいという想いがありました。

湯煎でサッと温めれば出来上がり

弁当文化をアメリカ文化に

現在、BentOn Kitは東海岸8州でしか配達していませんが、今後は中西部、西海岸、最終的には全米エリアに届けられる仕組みを作るつもりです。2021年1月からは定期便サービスもスタートします。まずは好きな時に好きなものを注文できるお試しキットを利用して、気に入ってもらえたら定期便を使ってもらいたいです。また日本の弁当文化という点でいえば、アメリカではまだまだ外国扱いの認識なので、もっともっと広げたいと思っています。BentOnをアメリカの代表的な弁当屋にしたいですね。

BentOn Kit オーダーはこちらから:
https://bentonkit.nyc/

PROFILE
古川 徹
1978年東京都葛飾区生まれ。成城大学法学部国際法専攻を修了後、オレゴン州ポートランド留学を経て、2002年10月に実家である「あづま給食センター」に就職、工場長に就任。2006年7月にNY現地法人「AZUMA USA 」を設立、代表取締役社長に就任。2012年4月BentOnと改名。お弁当スタイルを使ってさらなる日本食販売事業のアメリカ市場拡大を目指す。

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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