海外教育Navi 第77回
〜高校生を連れて海外赴任する際の留意点〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。


Q.高校生を連れて海外赴任をします。留意点を教えてください。

高校生のお子さんを帯同して海外に赴任する際、心配になることはいくつかあると思います。

・学校の授業についていけるか。
・英語(外国語)がわかるようになるか。
・どんな学校が受け入れてくれるか。
・学校生活はどのようになるか。
・保護者はどのように援助したらよいか。
・帰国に向けてどう考えたらよいか。
本財団の窓口にもこれらの相談が多く寄せられています。

①海外の高校ではどんな生活になるのでしょうか。

「海外」といっても、国や地域によって制度が異なりますので、一例としてアメリカの一般的な公立高校の場合で考えてみましょう。

アメリカでは一般的に高校までが義務教育で、その地域に住む生徒が通ってきます。つまり小学校からずっといっしょのメンバーも多いことになります。そこに海外から編入することを考えるとちょっと心配になりますね。

でもアメリカはもともと移民の国で、いろいろな人種が共存しているところですから、編入生の多くが温かく迎え入れてもらったという経験をしています。

日本からの赴任者が住む地域は、同じように海外から来ている外国人が多いのが普通ですから、外国人の受け入れには慣れていると考えてよいでしょう。

アメリカでは中学生や高校生になると選択科目が多くなり、ホームルームがないので授業ごとに別の教室に移動することになります。自主性を要求される分、大人扱いされているといえます。

英語が慣れない間はESL(English as a second language)などと呼ばれるクラスで学びますから、はじめはそのクラスに通う同じような境遇の生徒と仲よくなれるでしょう。また得意なことを生かしてクラブ活動などに参加すると、ぐっと友達を増やすことができます。スポーツが苦手でもアニメや音楽、ダンスなどから友達ができるかもしれません。

海外では自分がどんな人間かわかってもらうように積極的にアピールすることが大切です。授業のなかでのプレゼンテーションやいろいろな行事のときに、日本のことを伝えたり、自分のちょっとした特技を見てもらったりして、どんどん人前に出るようにしてみると、かならず歓迎してくれます。

どう思われるか心配したり、完璧を目指したりする必要はありません。自分を表現する大切さを学んできてください。

②どんなことを学ぶのでしょうか。

英語を使った経験の少ないほとんどの日本の中学生や高校生にとって、心配は尽きないでしょう。科目としては英語(国語)、数学、理科、社会など日本の中学校や高校と同じような科目があります。英語や語学、芸術等の時間は、かわりにESLで学びます。

すべての科目を英語で勉強するわけですからたいへんですが、ここでは日本語で学んだ知識なども生かせます。日本語の教科書・参考書・図鑑・歴史書・翻訳小説を活用することをお勧めします。日本語でも同じ分野に触れておくことは帰国したあとの学習にも役に立つのではないでしょうか。数学や理科は学ぶ順序や分野、深さに違いがありますが案外同じことを勉強します。社会や英語は学ぶ内容が違いますが、学習の目的は同じといってもよいでしょう。

ほかにも運転免許やバンドなど日本ではお目にかからない科目に触れることもできますよ。

日本との違いとして、教科書通りの内容を習うわけではないということがいえます。先生それぞれが独自の教材をつくって個性的な授業が展開されます。

③保護者のかかわりはどのくらい必要でしょうか。

中学生から高校生の時期はいわゆるティーンエージャーですから、成長に伴ってある程度大人扱いすることが必要になります。もちろん転入直後はことばの面、学校制度の違いなどを知るためにも保護者が積極的に学校に出かけていってよいでしょう。しかしある程度落ち着いたら、親離れをしようとする子どもに過干渉はよくありません。

ただし、放任は危険です。日本にないドラッグなどの誘惑については断固とした姿勢を見せておくことが大事です。またことばに慣れてくるとスラングや使ってはいけないことばなどを使いたがるものです。よくわからないままに、とんでもないところで使うことのないように注意してください。

アメリカの学校では保護者にもさまざまなボランティアへの参加が期待されています。知人の輪が広がり、アメリカ文化に触れて英語が堪能になるばかりでなく、お子さんからは伝わりにくい学校の様子を知ることができますから、ぜひ参加してみてください。そのうえで多少ぎくしゃくすることがあってもお子さんの考えたことに任せていく姿勢を持ってください。

大学進学や帰国のための情報などを伝えるのは大事なことですが、お子さん自身が自分の進路について考えて結論を出すようにすることは、人間として成長するためにも必要なことです。

→「第78回 〜高校生を連れて海外赴任する際の留意点〜〈後編〉」を読む。

今回の相談員

海外子女教育振興財団教育相談員
中山 順一

帰国子女の受け入れを目的に設立された国際基督教大学高等学校で創立2年目から38年間勤務。6000人以上の帰国生徒とかかわった。2008年より教頭。教務一般以外に入試業務(書類審査を含む)も担当した。2017年より海外子女教育振興財団で教育相談員を務める。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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