海外教育Navi 第97回
〜乳幼児の日本語の育み方〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。


Q.周りに日本人がいない環境で乳幼児を育てています。日本語をどう育んでいくか不安です。

このご質問をいただいたのが、新型コロナウイルス感染症が急速に世界に広がっていく時期と重なりました。

閉塞状況のなか海外で幼い子どもの育ちに寄り添うのは、健康面での不安と同時に日本語の発達においてもさぞご心配なことでしょう。

どの赤ちゃんもはじめは「オギャーオギャー」から

人間の赤ちゃんほど大きな声で泣く動物はいないといいます。

人類にことばがまだなかった太古、子育ては集団でなされ、みんなで赤ちゃんを守っていたので、安心して、洞窟などで大声で泣いたのだそうです。

はじめ「オギャーオギャー」と単調に泣くばかりで新米のお母さんを困らせたのに、ひと月もすると赤ちゃんの泣き声に変化が出てきます。それを親も聞き分け「おっきしたの? おなかすいたのね」「ちっちしてきもちわるいの」「ねむたいのね」など、赤ちゃんそれぞれの泣き方に反応し適切にケアできるようになります。

赤ちゃんは泣き声で、親をコントロールしているのです。

多様な泣き声を出すには、呼吸を自由に操るという発声学習能力が備わったと考えられます。

泣き方を変えて泣いても大人が反応しないとどうなるのでしょう。赤ちゃんは泣いても無駄と理解し、生後間もないときの単調な泣き方に戻るそうですよ。

ことばのもとは子守唄

大昔から周りの大人たち、特に母親は優しい柔らかな高い声で繰り返し歌うように声をかけて赤ちゃんの要求にこたえていきました。「子守唄」、これがことばの起源だろうと初期人類の研究者は推論しています。

いま育児書やネットの情報では、乳幼児期の親の「ことばかけ」が推奨されています。多くの大人たちによる心地よい「あやし」のメロディーとリズムが期待できない海外での子育て。親のみで育児をする「孤育て」においては、母語のことばかけすべてが貴重な「ことばの贈りもの」となるでしょう。

「ことばかけ」をたくさん

この泣く段階からクーイング(生後1カ月ぐらいから始まる赤ちゃんの「アー」「ウー」などの単音を伸ばした発声)や喃語(まだことばとはいえない発声)期を経ると、「指さし」をして、指をさす方向をいっしょに見ようという仕草をするようになります。「ほんとうね、わんわんいたわね、赤いリボンかわいいね」「バスね。こんど乗りましょう」など、赤ちゃんの力強い指さしは大人との対話を引き出します。

1歳前後になると、多くの赤ちゃんが「マンマ」「ワンワン」「ブーブ」など意味を持つ単語を発するようになります。

ことばの発達は、この単語の数が増えることを基準とはせずに、子どもの生活全体のなかで把握することが大切です。

岡本夏木さんは『子どもとことば』のなかで、「ことばの発達」は、むしろ「発達のなかのことば」と考えた方がよいといいます。ことばは人間性のすべてに根差すものだから、子どもが育つ全体を観ることが大切だと。またこんな指摘も。

赤ちゃんが「マンマ」というと「さあ食事にしましょう」と応じる大人は少ないでしょう。赤ちゃんの身になって「これマンマよ。おいしいマンマ。マンマたべましょね」と子どもの目線に下りて、子ども主体に対話を重ねていくことが大切だと。

1歳半から2歳半ごろになると「ママ、こうえん」「わんわん、いた」など2語文が、さらに3歳代には「ママ、こうえん、いく」「わんわん、いっちゃった、あっち」などの3語文が増えますが、こちらの言うことは理解できているのに、発語がほとんどないというお子さんも少なからずいます。こんな例もありました。

父親がソファで寝てしまい、2歳半のことばの出ない男の子が毛布を引っ張ってきてかけたそうです。母親はことばの遅れをかなり心配していましたが、子どもの「全体」の育ちからすると、〈思いやり〉を理解しているのを目撃して、以後いつの間にか不安は霧散したと聞きました。彼はいま、家でいちばんのおしゃべりだとか。

→「第98回 〜乳幼児の日本語の育み方〜〈後編〉」を読む。

今回の相談員
児童文学者
宮地 敏子

ニューヨーク補習授業校教諭、洗足学園短期大学幼児教育科教授、デリー大学東アジア研究科講師を経て、現在は国際幼児教育学会理事。海外子女教育振興財団の通信教育「幼児コース」の監修を担当。翻訳絵本に『やまあらしぼうやのクリスマス』『ぞうのマハギリ』、共著で花鳥風月をテーマにした友禅染絵本『はなともだち』『あいうえおつきさま』などがある。
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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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