海外教育Navi 第99回
〜海外の学校における選択肢と留意点〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.日本人学校、インターナショナルスクール、現地校について、特徴や通わせる際の留意点を教えてください。

はじめに

海外で学校に通う際のおもな選択肢は、日本人学校、インターナショナルスクール(以後インター校)、現地校になります。地域によっては必然的に学校が決まってしまうこともありますが、選べる場合にはそれぞれの学校について情報を得ておくことが必要です。

近年、「グローバル人材の育成」ということばが頻繁に聞かれるようになり、それに伴って英語学習の充実がクローズアップされています。このような時代の要請があるなかで、せっかく海外で生活するのだからこの機会に現地校やインター校に通わせて英語や現地の言語を習得させたいと思われる保護者は多いように思われます。

一方、母語としての日本語力の低下や帰国後の学習への適応などを考えると、日本人学校に通わせる方がよいのではと迷われるかたもいらっしゃると思います。

ここでは、日本人学校、インター校、現地校の特徴と通わせる際の留意点をそれぞれお伝えし、学校選択の参考にしていただければ幸いです。

(1) 日本人学校の特徴と通わせる際の留意点

日本人学校は、世界各地に海外駐在員を派遣している企業等が、おもに義務教育年齢の子どもたちのために、日本国内と同等の教育を確保することを目的として、自主的に設立した在外教育施設で、公的な性格を持つ私立学校です。2020年12月現在、世界50カ国に95校の日本人学校があります。

日本人学校では日本人としてのアイデンティティを大切にした教育を受けることができます。文部科学省の定める学習指導要領に基づいたカリキュラムで教育を行っている学校ですから、学習内容は国内と同じです。そのうえに、海外にあることを生かして国内よりも多くの時間を英会話にあてたり、現地語の学習をとり入れたり、現地の地理や文化について学ぶ機会を設けて国際的な資質を育てたりするなどの教育活動を行っている学校も多くあります。

また、学年相応の日本の生活常識を身につけることができます。海外での滞在が終われば日本に帰って生活することになりますので、考え方や生活習慣の点で、日本式の礼儀や敬語など学齢相応の日本の生活常識を身につけることができる点は魅力でしょう。

さらに国内の教育との連続性を持つことができ、学習上の戸惑いもなくなります。

授業は、派遣教師の選考試験に合格した意欲ある先生たちによって国内と同じ内容で指導が行われていて、学習進度に差はほとんどありません。また日本人学校の子どもたちの学力水準はほぼ一様に高いことがわかっています。

通わせる際の留意点として、日本人学校は日本の教育を行う教育機関ですが、日本の学校と違うところもあります。まず、国によって学校規模が大きく違います。2000人を超える大規模校から30数人の小規模校などさまざまです。

特にアジアにある日本人学校は規模が大きく、1学年10クラス以上ある学校もあります。そして、子どもたちの転入・転出が多く、歓迎会やお別れ会が頻繁に行われます。また、通学はスクールバスで行われているのが一般的です。

日本国内の学校とのこのような違いは、帰国後のカルチャーショックとして日本人学校に通っていた子どもたちにもあてはまりますので、注意が必要です。

(2) インター校の特徴と通わせる際の留意点

インター校は外国人の子どもたちのために設置・運営されている学校です。幼稚園児から高校生までの多国籍の子どもたちが多数在籍しています。日本人の多くはインター校の中でもアメリカ式、イギリス式、国際式(IB)などの学校を選択することが多く、使用言語はおもに英語です。

インター校に通うことにより英語力が身につくことが期待できます。授業だけでなく学校生活すべてを英語で過ごすため、英語を十分に使いこなすことが必要になります。そのために、英語が第二外国語の子どもたちのためにESL(English as a Second Language)プログラムを実施しているところが多くあります。学校生活に必要な最低限度の単語から学習用語の習得にまで高めていく指導が行われています。

また、習慣や考え方、行動の仕方が違う子どもたちと机を並べて勉強することでグローバル人材としての資質が育ちます。こうした環境で友人をたくさんつくるにはまず、さまざまの人をあるがままに理解し認め尊重する態度が大切です。このような姿勢を身につけることにより、国際性、国際的視野、国際的判断力が自然と養われていきます。そして、コミュニケーション力やプレゼンテーション力が育ちます。

インター校の授業には特徴があります。講義もありますが、子どもの発言を生かして授業が進んでいくスタイルが多いのです。クラスのサイズも小さいので、発言するチャンスが多くあります。

また、小学校の授業では “Show & Tell”(珍しい物や自慢の物を持ってきて皆に説明するアクティビティ) などプレゼンテーションの機会も多くあります。このような活動を通して表現力が身につきます。

インター校の選択にあたっての留意点としては、学校のステイタスを調べることが必要です。その学校を設置した本国の教育に準じたカリキュラム・教師陣を備え、国際的な評価団体の認定を受けているかどうかは在籍中や卒業後の資格がどのようなものになるのかという、たいへん重要な意味を持っています。

※次回に続きます。次回記事は5月15日(日)に掲載予定です。

今回の相談員
海外子女教育振興財団 教育相談員 
清水 賢司

1975年返還直後の東京都小笠原村母島にて教員生活を開始。その後、都内中学校の副校長、校長を歴任。1991年より3年間ラスパルマス日本人学校(スペイン)、2014年より4年間テヘラン日本人学校(イラン)にて勤務。東京都海外子女教育グローバル教育研究会顧問。2018年より海外子女教育振興財団の教育相談員。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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