海外教育Navi 第101回
〜海外で乳幼児の母語を育てる〜〈前編〉

記事提供:月刊『海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)

海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育アドバイザー等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。

Q.幼児を連れて海外に行きます。日本人はほかにいないようです。どう母語を育てていけばよいのでしょうか。

世界中に新型コロナウイルス感染の猛威がふるい1年以上たちました。感染防止の努力やワクチン接種の広がりと共に、一時減っていた海外赴任者が少しずつ増加傾向にあります。現在、弊財団がオンラインで開催している赴任前子女教育セミナーの参加者や教育相談の利用者も以前と変わらない人数になってきました。

そういったなか、年々増えているのが未就学児に関する相談です。コロナ禍前のデータ(海外在住小中学生約8万人、未就学児約7万5000人)からも未就学児の帯同が増えていることがうかがえます。

そこで課題となるのが「母語の保持育成」です。

母語の大切さ

母語とは人が幼少期から習得し使い慣れた言語を指します。日本語を母語として生活している私たちは、日本語によって人と交わり、物や文化に触れ、理解を深め表現活動を行っています。

母語が最も急激に発達するのは2歳から4歳ごろ、母語で学習ができる力を養うには9歳から10歳ぐらいまでといわれています。つまり幼児期から小学校中学年ぐらいまでが母語を形成するうえでとても大切な時期なのです。

この時期に海外で過ごすと、現地の言語や文化に大きく影響を受けて人格が形成されていきます。現地に永住するならば、もしくは家庭の教育方針でそれを望むのであれば、日本語にこだわる必要はないかもしれません。しかし数年後に帰国し、日本で教育を受け生活を送ることを考えるのであれば、日本語の習得、幼児期における母語の保持育成は欠かせません。

海外で英語を学ばせ、バイリンガルな子どもに育てたいと願うかたも多いでしょう。英語習得に会話力は必要な要素ですが、それ以上に求められるのは読解力です。この読解力は母語が育っている子どもの方が母語の弱い子どもよりも早く発達するというデータが出ています。英語など第2言語の習得にも、土台となる母語の育成がとても重要なのです(中島和子著「言葉と教育」参照)。

母語の保持育成

母語の保持育成には、母語で聞く・話す・読む・書く、それぞれの機会を増やすこと、そして身につけた母語で教科学習に励むことが必要です。幼児期の子どもはまだ「読むこと」「書くこと」は難しく、まず「聞くこと」「話すこと」から母語の基礎をつけていかなければなりません。

幼児期のお子さんはほとんどの時間を家庭で過ごし、お母さんと触れ合います。お子さんはお母さんのことばを聞き、オウム返しのようにそのことばを話します。お子さんに語りかけるそのことばがまさしく母語のもとになるのです。お子さんに意図的に正しい日本語で話す努力をすることが肝心です(ご家庭によってはお父さんやほかのかたがその役割を担うかもしれません)。

<正しい日本語で>

正しい日本語というと、なにか堅苦しく感じられるかもしれませんが、大事なのはお子さんに間違ったことばの認識や使い方をさせないことです。

たとえば、皆さんのご家庭では「はーい、ご飯」「はーい、お風呂」といったような会話をされていませんか。母語がしっかり身についていない子どもがこのことばを聞いたら、主語と述語をどう捉えるでしょう。

正しくは、「ご飯の用意ができたよ」「ご飯が炊けたよ」「お風呂に入ってね」「お風呂が沸いたよ」となりますが、「ご飯が焼けたよ」「お風呂が煮えたよ」と間違ったことばで認識しているかもしれません。

ふだんの会話では単語中心のやり取りにならないよう、意識的に正確な伝え方を心がけてください。日々のなにげないことばのやり取りが、お子さんの正しい言語認識、ことば遣いにつながります。

またお子さんには日常生活でさまざまな体験をさせてあげてください。直接体験が無理なら映像や絵本を見せてあげたり、お話を聞かせてあげたりしてもいいでしょう。そのとき、適切な説明やことばがけをしてあげることが大切です。

<絵本の読み聞かせ>

幼児期のお子さんは、絵本を読んでもらうのが大好きです。自分からお気に入りの絵本を持ってきて、親御さんの読み聞かせに目を輝かせながら聞いている子も多いことと思います。

読み聞かせには、たとえば次のような多くのメリットがあるといわれています。

  • 親子のコミュニケーションが深まり信頼関係が高まる
  • 喜怒哀楽を感じて感情表現が豊かになる
  • 想像力が育ち感受性が豊かになる
  • 集中力がつく
  •  

    母語の育成においても大きな効果があります。まだ字が読めない子どもは、耳から聞くことばと絵本の絵や文字とを結びつけることによって語彙力や読解力を高めます。

    ここに少し工夫を加えるとさらに効果がアップします。絵本を読む際に声の強弱をつけたり動作を加えたりして、お子さんを絵本の世界に引き込んであげてください。また絵本を読み終えたあと、物語の印象的な場面や登場人物の気持ちなどを尋ねてあげましょう。するとお子さんはその問いかけに思いを巡らせて想像力を働かせ、身につけたことばでお父さんやお母さんに一生懸命伝えようとするに違いありません。

    →「第102回 〜海外で乳幼児の母語を育てる〜〈後編〉」を読む。

    今回の相談員
    海外子女教育振興財団 教育アドバイザー 
    菅原光章

    1979年から奈良県の公立小学校に勤務する。1983年より3年間、台北日本人学校へ赴任。帰国後は奈良市立小学校に勤務、教頭・校長を歴任する。また奈良県国際理解教育研究会の会長を務めた。退職後、奈良県教育振興会理事ならびに同志社国際学院初等部の教育サポーターを務める。2016年4月より海外子女教育振興財団の教育相談員(現・教育アドバイザー)。

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公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

公益財団法人 海外子女教育振興財団 (Japan Overseas Educational Services)

ライタープロフィール

昭和46年(1971)1月、外務省・文部省(現・文部科学省)共管の財団法人として、海外子女教育振興財団(JOES)が設立。日本の経済活動の国際化にともない重要な課題となっている、日本人駐在員が帯同する子どもたちの教育サポートへの取り組みを始める。平成23年(2011)4月には内閣府の認定を受け、公益財団法人へと移行。新たな一歩を踏み出した。現在、海外に在住している義務教育年齢の子どもたちは約8万4000人。JOESは、海外進出企業・団体・帰国子女受入校の互助組織、すなわち良きパートナーとして、持てる機能を十分に発揮し、その使命を果たしてきた。

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