タランティーノ、最後まで魅せる「The Hateful Eight」(12月25日公開)
文/はせがわいずみ(Text by Izumi Hasegawa)
- 2015年12月28日
「クエンティン・タランティーノの新作は、約3時間の西部劇」と聞いた時、試写に行くのをためらった。トイレが近い筆者は、3時間の映画となると半日前から水分の補給を控えなければならない。すでに試写に行った友人記者から「映画にはインターミッションがある」と知らされ、やや安堵したものの、長丁場には違いない。「途中で飽きて、後半は苦痛でしかなくなるのでは?」という懸念と共に試写に臨んだ。
冒頭、Overture という文字とともに、ザ・西部劇! な音楽が延々と流れる。タランティーノの長年のラブコールについに応えてサウンドトラックを担当したエンニオ・モリコーネの約40年ぶりの西部劇音楽だ。「一体いつまでこの“音楽だけ”というのが続くのだろうか?」としばらく考えていると、本編が始まった。
タランティーノらしい、モノローグなセリフの応酬と暴力的シーンが展開するが、場面が切り替わるごとに「第○章」という表示が出るため、テンポが良い。おまけに、ややミステリー的な内容になっており、クライマックスに至るまで「この先、どうなるのか?」というワクワク感が持続し、「きっと途中で飽きる」という予想は大きく裏切られた。伏線に次ぐ伏線が昇華されていく様は見事で、タランティーノの物語構成能力が抜群に伸びたのを実感した。特に、冒頭、カート・ラッセル演じるジョンが、ジェニファー・ジェーソン・リー扮する罪人デイジーをかなり暴力的に扱うシーンがありショックを受けるが、そのワケが後半明かされる。映画を最初からまた観たくさせる瞬間だ。
本作も人種差別に対するタランティーノの思いが物語から滲み出る。サミュエル・L・ジャクソン扮するキャラクターに対する白人キャラクターの言動に、約150年経っても進歩していない社会に対する痛烈な皮肉を投影する。
ただ、1点残念だったのが、ティム・ロスのキャラクターと演技。「Inglorious Basterds」でオスカーを手にしたクリストフ・ヴァルツが扮したキャラクターの演技にソックリだったのだ。まるで「あの映画のクリストフと同じ演技をしてくれ」と演出したとしか思えないほどだった。群像劇を作れば作るほど、過去作に登場したキャラクターと似た人物が出てしまう可能性は高まる。新鮮なキャラクター作りがタランティーノの今後の課題と言えよう。
ちなみに、本作の美術監督は、「Kill Bill: Vol. 1」でもタランティーノと組んだ種田陽平。南北戦争直後のロッキー山脈にある山小屋を作り上げ、職人気質とアートを見事に融合させていた。
タランティーノは、70ミリ映画にこだわり、本作は限定で70ミリ公開をした後、通常サイズでの拡大公開となる。山小屋の中でのシーンがメインとなる後半、狭い空間での70ミリの恩恵を堪能できるかは観客それぞれとなりそうだ。
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