第49回 バレンタインには「チョコレートと
シャンペーン」という非常識

文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)

シャンペーン三昧Photo © Yuki Saito

シャンペーン三昧
Photo © Yuki Saito

 日本では、バレンタインデーには「チョコレートとシャンペーン」という おかしな組み合せが定着しているそうな。最初の仕掛け人はチョコレート製造業者で、昭和30年代に遡る。しかも日本では何故か「女性から男性へ」チョコを贈るという変なおまけまでついた。欧米では、もちろんそういう習慣はなく、男性から女性へプレゼントをする方が普通だろうか。もちろん、子供が先生に、あるいは親友同士がバレンタインを交換したりという友情の証(あかし)的なノリもある。近年では、ちょっと贅沢にシャンペーンで祝おうという人も増えた。そこで出てきたのが「チョコレートとシャンペーン」という全くいただけないペアリングだ。

 ワインのペアリング(マリアージュ)の理論を学ぶまでもなく、苦味と甘みの強いチョコレートと、歯にしみるほど酸味が高いシャンペーンを一緒に味わうとどうなるかは、想像がつくだろう。例えると、チョコレートケーキと酢の物を一緒に食べるようなものだ 。シャンペーンが、ただ苦くて酸っぱい液体になる。これでは勿体ない。折角頂いたチョコレートも、奮発したシャンペーンも美味しくいただくには、ペアリングを別々に考えることだ。つまりはチョコレートが美味しくなるワイン、シャンペーンに引き立つ食べ物を合わせれば良い。

シャンペーンの数々Photo © Yuki Saito

シャンペーンの数々
Photo © Yuki Saito

 一般的にチョコレートに合わせる定番は、ポルトワインだが、 シェリー酒で最も甘いペドロヒメネス(Pedro Ximenez)や、オーストラリアが誇るスティッキー(ブラウンマスカットで作るRutherglen)もなかなか面白い。このふたつは、余りに甘くて、お酒だけ飲んでいるとちょっと閉口するが、チョコレートとペアリングをすると、甘さが緩和される。とはいえ、ペアリングのコツは、 飲みものの甘さが、食べものの甘さより控えめであることだ。でないと、飲み物が食べ物の味を圧倒してしまい、マリアージュの意味がなくなってしまう。個人的な好みは、ルビーポルトにビターチョコ。中にラズベリージャムなんかが入っていたら、更に相性が良くなる。ポルトの中でもフルボディで樽が効いたルビーポルト(余裕があれば、ヴィンテージやLBVなら更に贅沢)は、チョコレートの甘さと苦味を中和しながらも引き立ててくれる。

 友人のソムリエは、ラズベリーソースのチョコレートケーキにはこれが定番だ! と言い張る。ホワイトチョコはねっとりとしたバターのような食感と、控えめな甘さがあるので、恐らくマスカット系で、残糖分が高いデザートワインが良いのではないか? 或いは新世界のアイスワイン(カナダやNYが有名)も合うかもしれない。と言っていたら、日本からの出張者と現地のアメリカ人男性軍が、「甘いワインは苦手だ〜! デザートもパス」などと駄々をこねたので、全員に別々のデザートワインとケーキを注文して食べさせた。結果は「絶賛」の嵐。曰く、「不思議なことに、ケーキもワインも甘さが優しくなった」「これなら美味しく食べられる」「目から、ウロコ!」などなど。

ドンペリニヨンのワインメーカーとPhoto © Yuki Saito

ドンペリニヨンのワインメーカーと
Photo © Yuki Saito

 シャンペーンは万能ワインで、チョコレートやデザート以外なら、基本的には何にでも合う。サンフランシスコのソムリエの間で一頃流行ったのが、シャンペーンとポテトチップス。ポテチの油と塩分が、シャンペーンの酸味と泡にぴったりで、食べ始めると止まらなくなる。だから、天ぷらは勿論、揚げ物とシャンペーンの相性は抜群だ。ところで、シャンペーンばかりを語っているが、世界には素晴らしい泡ものがあふれている。まずは、泡王国のイタリア。比較的甘口で泡が強くないモスカト(或いはアスティ)から始まり、穏やかな口当たりのプロセッコ、高級品のフランチャコールタ、そして赤ワインの泡ものの代表であるランブルスコや、珍しいところではブラチェッタダキなど。スペインのカヴァも格安から高級品まで幅があり、フランスでもシャンペーンと同じ製法でつくるクレマンは割安で、全国各地で特徴のあるものを生産している。勿論、新世界のアメリカ(カリフォルニア)、オーストラリア(タスマニア)、アルゼンチン(メンドーザ)南アフリカ(キャップクラシック)などのスパークリングワインも素晴らしい質だ。さて、今年のバレンタインデーは、何を選ぼう。

Universal Mobile

この記事が気に入りましたか?

US FrontLineは毎日アメリカの最新情報を日本語でお届けします

斎藤ゆき (Yuki Saito)

斎藤ゆき (Yuki Saito)

ライタープロフィール

東京都出身。NYで金融キャリアを構築後、若くしてリタイア。生涯のパッションであるワインを追求し、日本人として希有の資格を数多く有するトッププロ。業界最高峰のMaster of Wine Programに所属し、AIWS (Wine & Spirits Education TrustのDiploma)及びCourt of Master Sommeliers認定ソムリエ資格を有する。カリフォルニアワインを日本に紹介する傍ら、欧米にてワイン審査員及びライターとして活躍。講演や試飲会を通して、日米のワイン教育にも携わっている。Wisteria Wineで無料講座と動画を配給

この著者への感想・コメントはこちらから

Name / お名前*

Email*

Comment / 本文

この著者の最新の記事

関連記事

Universal Mobile
資格の学校TAC
アメリカの移民法・ビザ
アメリカから日本への帰国
アメリカのビジネス
アメリカの人材採用
Universal Mobile

注目の記事

  1. ケンタッキー州の西部に位置するマンモス・ケーブ国立公園は、複雑に絡み合った小道と大小さまざま...
  2. あなたの食生活は大丈夫? 「体が資本」という言葉がある通り、日々の食事は体の土台を作るための大...
  3. ステンレス製のお皿にライスが隠れるようにルーを全体にかけ、その上にトンカツ、そして付け合わせにはキャ...
  4. この原稿を書いているのは2020年6月12日。昨日、ニナの義務教育が終了した。オンラインでの...
  5. アラスカ州とカナダの国境地帯に広がるのは、世界最大規模の自然保護区。北米大陸最高峰の山々に世...
  6. コロナ禍の3カ月の自粛生活は、私たちそれぞれに、自分の忙しい生活を今一度振り返る良い機会とな...
  7. ニューヨークを拠点に、さまざまなセミナー、フェスティバルやディナー会などのイベント、質の高い日本食を...
  8. 疲労の原因には、精神的ストレス、身体的ストレス、生活環境ストレス...
ページ上部へ戻る