日本人駐在員の抱える問題あれこれ
文/在米日本人フォーラム(Text by Japanese Forum USA)
- 2017年7月15日
単身赴任、アメリカでは即離婚? 海外赴任を辞退した大手商社マン
駐在員の長時間労働の問題を取り上げて調べていたところ、他にも駐在員が抱える問題が色々と浮かび上がってきました。数ある問題の中から、単身赴任、企業風土の違い、派遣員の将来を取り上げてみました。
単身赴任
1. 家族のあり方に関し、アメリカと日本の常識の違いを紹介しておきましょう。
アメリカでは夫婦は常に一体でなければなりません。日本人が当然と考えている子女の教育のために夫婦が別居することは、アメリカ人には全く理解してもらえません。もしそれを理由に夫婦別居ともなればアメリカ人なら即離婚につながるでしょう。
アメリカの家族は常に家族全員が運命共同体として一体であることが常識とされます。したがって、夫だけ(時には妻だけ)の単身赴任は考えられないのです。
その反面、日本の家族は、夫婦間よりも母親と子女の結びつきがややもすれば強く、国内外を問わず夫の単身赴任が当然のように行われています。
アメリカに長く住む私たちにとっては、アメリカと日本の家族の在り方が余りにも違うことを強く認識させられるのですが、どちらが正しいと判断を下すことはできません。
それぞれの家族で家族を構成する全員の理解と納得のうえで決めるべきだと考えるからです(執筆している私は、家族は常に一体であるべきというアメリカに軍配を上げたいのですが)。
2. 最近は日本人の駐在員の多くの方々が単身赴任です。この単身赴任は健康面においてマイナスの影響が憂慮されます。
確かに駐在員の子女の年齢から家族の帯同が難しい場合もあると思います。しかし、単身ゆえに、家に帰っても特にすることがないから仕事を自宅に持ち帰る、或いは残業する。これが長時間労働という悪循環を生み出していると言えるでしょう。
これに加えて貧しい食生活に甘んじている不健康な現状を考えると、改めて単身赴任の是非を問いたくなります。
日米の企業風土の違い
1. 日系企業に働くアメリカ人は終業時間になると申し合わせたように一斉に退社します。そして残っているのは日本人の駐在員のみです。
日本人の常識からすれば多少の残業はごく普通といえるのですが、他方アメリカ人の常識は定時に帰ることなのです。どの日系企業にもこの2つの常識が同居しています。
日本人駐在員の残業が7時、8時程度であればともかく10時、11時、ときには深夜に及ぶとあっては、それも毎日のようになると常識のレベルをはるかに超えています。
アメリカ人は、「Quality of Life」を大事にする意識が強く、個人や家庭の生活が仕事と同等またはそれ以上に重要と考えています。日本人にはこの考え方が希薄のように思えてなりません。仕事が全てで残業が当然という企業風土が日本の成長を支えてきたことは事実でしょう。それは日本人の勤勉さでもあったと思います。
しかし、今やその企業風土が、実際には生産性が悪く企業の成長に必ずしも結びついていないとしたら大きく見直すべきではないでしょうか。
2. アメリカは、「結果がものをいう世界」と言われています。つまりプロセスはあまり重要ではないのです。
逆に、日本は結果だけでなくプロセスを重視する風潮があり、「大袈裟に言えば「手段は選ばない」という考え方には強い抵抗感があります。
アメリカの会社は基本的にプロの集団という概念があり、社員はプロとして成果を出すことを期待されています。つまり成果を出すことができれば、そのプロセスをあまり注目されません。
成果を出せなかったときは、プロセスがどうであれ、その社員の評価は下がり、または問題の深刻度によっては減給、懲戒、さらには解雇となるだけです。
この意味では、日本の企業は必ずしもプロの集団ではないと言えるかも知れません。そうとは言いたくないのですが、それが日本企業の実態の一部のように思えてなりません。
全くプロセスを顧みないというのは極端過ぎますが、日本の企業もアメリカのように、プロセスよりももっと結果に重心をおいてみてはどうでしょう。プロの集団として基本的なプロ意識を徹底させることは、生産性の向上につながると思います。
これからの海外派遣員
これはある大手商社で本当にあった話です。ある社員に海外駐在の内示をしたところ、その内示を辞退されたのです。その社員は特別な事情があった訳ではなく、本人が海外に行きたくないというのが辞退の理由でした(海外なら自費で休暇旅行に行くとまで言ったとか)。
その商社の人事部は、商社を希望する人たちは、将来海外派遣があることを覚悟のうえで応募していると信じこんできましたから、採用時点でわざわざ海外派遣の可否を確認したことがありませんでした。
海外駐在を辞退される事態が起こりショックを受けた人事部は、最近では入社希望者へのアンケートにもそして面接においても、「あなたは将来海外派遣に応じられますか。」という質問を必ず行うことにしたそうです。海外派遣が当然とされてきた日本の商社においてです。
1. 日本では人口の減少、老齢化が進む中、日本の企業は海外に成長を求めざるを得なくなりました。そこで海外に派遣する人材が必要になるわけですが、最近の若い世代の人たちで海外駐在を希望する人はどれほどいるのでしょう。
むしろ海外派遣を辞退する人の方が多いかもしれません。これではこれからの企業の発展は望めません。そうであるなら海外駐在がもっと魅力的なものになるよう、その環境作りが必要だと思います。
「ほうれんそう」のための長時間労働や単身赴任が海外赴任を望まない理由になっているかも知れません。「若者よ、世界にはばたけ。」と標語を掲げる前に、若者がはばたく世界が若者にとって魅力あるものにしなければなりません。
2. 派遣員の育成
日本から出たがらない今の若者世代に世界への関心を持たせるには、海外派遣の予備軍あるいはその養成コースのようなものを設け、本人にそれなりの海外駐在の準備ができるようにすることも重要な課題です。
すでに大手企業では、トレイニー(研修生)制度や企業留学制度を実施しているところも多くあります。
しかし、最近の海外進出する企業の数では、中小企業の方が多いのです。それらの企業こそ派遣員の育成が重要となっています。
語学力は基本中の基本として、今の日本には海外のこと、文化を学ぶ機会はたくさんあると思います。 そしてこの海外派遣の人材育成のために、語学学習や知識習得のための時間とそれに伴う費用を提供し支援する体制やシステムが構築されることが必要と考えます。
企業にとって人材への投資はROI(投資利益率)が高いものと理解し注力すべきと思います。
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