Vol.10 要塞建築が守り続ける美しい港町
プエルト・リコのラ・フォルタレサとサン・ファン国定史跡
− プエルトリコ自治連邦区 −

文/齋藤春菜(Text by Haruna Saito) 写真提供/NPS Photo

世界遺産とは●
地球の生成と人類の歴史によって生み出され、未来へと受け継がれるべき人類共通の宝物としてユネスコの世界遺産条約に基づき登録された遺産。1972年のユネスコ総会で条約が採択され、1978年に第1号が選出された。2018年7月現在、167カ国で1092件(文化遺産845件、自然遺産209件、複合遺産38件)が登録されている。

6階建てのエル・モロ要塞の各階では興味深い構造や荘厳な光景などが見られ、こどもも大人も楽しめる ©︎Casey Ogden

カリブ海に浮かぶ小さな島々で構成されるプエルト・リコ。現在はアメリカの自治連邦区となっているこの島には、スペインの植民地だった時代背景から独特の町並みや食文化がある。美しい海岸線や熱帯雨林、賑やかな町並みなど魅惑のスポットが数多くあり、The New York Timesが1月に発表した「2019年に訪れるべき52カ所」のベスト1に選ばれた。

その最大都市であるサン・ファンの町は、石畳の通りにコロニアル調のカラフルな家々が立ち並ぶ、大西洋に面した港町だ。ここには、外敵をしのぐために16〜20世紀に建てられた要塞建築群が今も残っている。当時のヨーロッパにおける軍事的建造物の高度な技術と特徴をよく表した見本として、1983年に世界文化遺産に登録された。

中世ヨーロッパにタイムスリップ

軍事技術の粋が集められたサン・クリストバル要塞

サン・ファン旧市街は、かつて防衛のために造られた外壁で今も囲まれている。町の西側の海岸線に建つラ・フォルタレサは、1533年に建てられたもっとも古い要塞だ。湾からの敵の侵入を防ぎ、町を守るために建てられたこの建物は、のちに総督邸としての役割を果たすようになり、現在も知事官邸として利用されている。さわやかな空色の壁に覆われたヨーロッパ風の建築は、まるで宮殿のよう。

北西の断崖に建っているのは、サン・フェリぺ・デル・モロ要塞(通称エル・モロ要塞)。エル・モロ要塞は砦としての役割はもちろん、武器庫や監獄なども備えられていた。高い壁で囲まれた建物の内部には、迷路のように入り組んだ地下道が張りめぐらされており、難攻不落といわれていたそうだ。現在は博物館となっているので、訪れた際には見学してみよう。大西洋を一望できる絶景ポイントもお見逃しなく。

サン・クリストバル要塞は、旧市街の東側を守る砦。この要塞は1634年に建設が始まり、完成までに約150年もの歳月を要したという。広さは27エーカーと、アメリカ大陸で最大規模を誇る。敷地内を歩くと大砲の狭間や見張り台、入り組んだ通路やトンネルなど、当時のヨーロッパにおける要塞建築の高い技術を見て取れるだろう。

そのほか、外壁に備えられた5つの門のなかでもっとも古く、唯一現存するサン・ファン・ゲートや、町でもっとも古い歴史を持つサン・ファン大聖堂、ピンクのドーム型天井が目印の礼拝堂を囲むサン・ファン墓地など、見どころは尽きない。旧市街はコンパクトなので、徒歩でのんびりと散策するのがおすすめだ。足腰に自信がない場合は、トロリーバスで町を回ることもできる。ウォーキングツアーに申し込めば、ガイドが詳しい解説をしながら見どころを案内してくれる。

時間に余裕があれば、外壁の外側にぐるりと張りめぐらされた遊歩道パセオ・デル・モロを歩いてみよう。歴史深い外壁に沿って大西洋を包むそよ風にあたると、かつての賑わいがどこからともなく聞こえてくるような、不思議な体験ができるかもしれない。

旧市街を囲む外壁の向こうに広がるのは、紺碧の海

遺産プロフィール
プエルト・リコのラ・フォルタレサとサン・ファン国定史跡
La Fortaleza and San Juan National Historic Site in Puerto Rico

登録年 1983年
遺産種別 世界文化遺産
https://www.nps.gov/saju/index.htm

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齋藤春菜 (Haruna Saito)

齋藤春菜 (Haruna Saito)

ライタープロフィール

物流会社で営業職、出版社で旅行雑誌の編集職を経て渡米。思い立ったら国内外を問わずふらりと旅に出ては、その地の文化や人々、景色を写真に収めて歩く。世界遺産検定1級所持。

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