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海外教育Navi 第26回
〜帰国後、子どもの学校適応とストレスケア〜〈後編〉
記事提供:『月刊 海外子女教育』(公益財団法人 海外子女教育振興財団)
- 2019年4月15日
海外勤務にともなう子育てや日本語教育には、親も子どもも苦労することが多いのが現状。そんな駐在員のご家族のために、赴任時・海外勤務中・帰任時によく聞くお悩みを、海外子女教育振興財団の教育相談員等が、一つひとつ解決すべくアドバイスをお届けします。
Q.帰国後、子どもが見せるシグナルについて教えてください。
前回のコラムでは、帰国後に子どもが直面するストレスや、学校でのトラブルについて説明しました(前回記事へ)。今回はその続きをお話しします。
不適応時に見せるシグナル
学校への不適応ということで受けるご相談を聞いていると、子どもたちはさまざまなシグナルを出していることがわかります。そのなかには改善しなければならないものも多くありますが、帰国後の過程において必然的といえるようなものであったり、なかには帰国生が本来持っている個性や友達によい影響を与えたりする「そのまま続けさせたいシグナル」もあります。
そこで、私は子どもたちが発するシグナルを次の赤・黄・青の3課題に分類して、それぞれの相談に対峙しています。
・理解不足や誤った理解が原因で深刻な状況になっている課題 ⇒ 赤シグナル
・多くの帰国生が直面するストレスで、帰国生に自力で解消させたい課題 ⇒ 黄シグナル
・周囲にとって価値あることで帰国生の個性としても捉えられる課題 ⇒ 青シグナル
赤シグナルの例とその対処法
・消極的な言動が見られるようになったり海外経験を隠すようになったりする
「キコク隠し」ということばを聞くことは少なくなりましたが、帰国する地域によっては帰国生の存在が珍しく注目の的にもなるため、滞在していた国の話をしなくなったり英語の時間にわざと変な発音をしたりするという行動をとる帰国生もいます。ただし、これらの行動は一過性の場合が多く、新しい友達関係が築かれたり授業の進め方に慣れたりすることにより消えていくシグナルといえるでしょう。
しかし、編入した学年によっては進学という課題に直面する場合もありますので、大きな学習の落ち込みは「赤シグナル」と捉えなければなりません。また、落ち込んだ様子で帰宅したり、朝、学校に行きたがらなかったりする状況が続くようであれば「赤シグナル」です。
なお、これらの原因のなかには帰国生の思い込みだったり理解不足だったりする場合が多くありますので、まずは原因をしっかり見極めることが解決の第一歩です。
そのほか、次のような状況が見られた場合には重大な赤シグナルといえます。
・朝、玄関でうずくまる
・摂食障害を起こす
・「学校へ行く意味を感じない」と言い張る
このようになってしまった場合にはスクールカウンセラーや専門医等と協力して至急解決する必要があるでしょう。
黄シグナルの例とその対処法
・日常会話のなかで滞在していた国や学校の話をよくする
帰国当初には、滞在していた国や海外での学校の話をしたりするのはごく普通のことです。
このシグナルは多くの帰国生に見られ、一過性の場合がほとんどですので特別な対処をする必要はありません。しかし、そうはいっても未来志向を持つべき子どもにとっては、いつまでも過去を懐かしがっていることは決して好ましいことではありません。このシグナルが長期にわたるようであれば、「黄シグナル」と見るべきでしょう。
また、この背景に「編入した学校の校則になじめない」や「日本のいやなところばかり目につく」という理由があるようであれば、「赤シグナル」に進行する可能性も秘めています。これらの場合には特にエスカレートしている言動を見極めて解消していく必要があります。
青シグナルの例とその対処法
・海外で得た言語を忘れていく
・自己主張が強い
英語圏から帰国した親御さんのなかには、「英語が剥がれ落ちていく」と帰国後の我が子の英語力の低下を心配するかたがいます。特に小学校の低学年で帰国した場合にこの傾向があります。しかし、帰国した子どもが日本の学校に適応するためには海外で覚えた言語の保持より日本語を習得することこそが最優先課題なので、その成果が出ているともいえるのです。ただしせっかく身につけた力です。無理のないよう両方を伸長させていけたら素晴しいことだと思います。
また積極的に自分の考えを述べながら授業を理解していくという海外で身につけた授業スタイルが、先生や友達に違和感を持たれる場合もあります。
しかし、帰国子女を多く受け入れている学校の先生からは、学校を活性化するための起爆剤として帰国生の積極性を生かしたいという話も聞きます。
一見、黄シグナルと思われるこれらの言動も、立場を変えてみると必然の姿であったり素晴しい感性であったりしますので、「青シグナル」と受け止めることができます。このようなシグナルの場合には「見守る」という対応が望ましいでしょう。
赤シグナルが青に変わる親の姿勢
いつの時代も子どもは親の背中を見て育ちます。なにげない親御さんの言動がお子さんに強い影響を与えていることがあります。長い目で見れば、失敗の経験などないのです。
海外の経験を生かすということは、海外での多様な経験を帰国後に日本の文化に融合させながら、グローバルな人生の礎を築くことではないでしょうか。
帰国生の誰もが胸を張って、帰国後の学校生活をのびのびと送ってほしいと願っています。
海外子女教育振興財団 教育相談員
平 彰夫
千葉県の公立小学校で教頭、校長を歴任。千葉県小学校長会理事、千葉県海外子女教育国際理解教育研究会副会長を経験。1998年より3年間、デュッセルドルフ日本人学校に教頭として赴任。この間、補習教室の教頭を兼任。2011年4月より海外子女教育振興財団の教育相談員。
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