[敬老・売却問題] ノーマン・ミネタ元運輸長官が反対派支援を表明、日系社会のシンボル
文&写真/佐藤美玲(Text and photos by Mirei Sato)
- 2016年1月24日
ロサンゼルスの日系高齢者施設「敬老」が営利企業に売却されようとしている問題で、売却の阻止をめざす反対派市民グループ「敬老を守る会」(Save Keiro)に、大物政治家の支援がついた。
ノーマン・ミネタ(Norman Mineta)元運輸長官が、1月23日、ロサンゼルス・リトル東京で開かれた反対派の集会に出席し、表明した。

1月23日、「敬老を守る会」の集会で、支援を表明したノーマン・ミネタ元運輸長官
Photo © Mirei Sato
しばらく前から守る会を通じてこの問題で相談を受けていたミネタ氏は、「敬老の居住者に十分な状況説明がされたのか、日系コミュニティー全体が十分な情報を得ているのか」という点を問題視した、という。
「敬老側の説明も見たが、何ひとつ、納得できるものに思えなかった。居住者の将来はどうなるのか、これから入居したい人たちはどうなるのか。まったく納得がいかない」と話し、「敬老の売却に反対すべく、みなさんに私の力を貸したい」「みなさんの運動に加わることを誇りに思う」と述べて、会場から拍手を浴びた。
ミネタ氏は、カリフォルニア州サンノゼ出身の日系2世。第2次大戦中は、ワイオミング州のハートマウンテン強制収容所に送られた。
終戦後、サンノゼ市議会議員、サンノゼ市長を経て、1974年、連邦下院議員に就任した。いずれもアメリカ本土では日系人として初の当選であり、歴史を塗り替えてきた。
その後、ビル・クリントン政権下で商務長官を、ジョージ・W・ブッシュ政権下で運輸長官を務めた。
2011年の「9.11」中枢同時多発テロの直後に、自身と日系人の体験を教訓として、「レイシャル・プロファイリング」(特定の人種や民族や宗教に対してそれを理由に取り締まりを行ったり疑いをかけたりすること)に、強く反対した。
功績と知名度は、アジア系の存命する政治家としてはナンバーワンといっても過言ではない。地元サンノゼの空港には、ミネタ氏の名前がついている。最近は、俳優の渡辺謙がドキュメンタリーで取り上げるなどしたため、日本でも有名だ。

会場を埋めた反対派に語りかけるノーマン・ミネタ元運輸長官(手前背中)
Photo © Mirei Sato
敬老を守る会は、昨年11月以来、政治活動の色を強めてきた。16人の連邦下院議員が、売却を認可したカマラ・ハリス・カリフォルニア州司法長官に陳情書を提出。ジュディー・チュー、マキシーン・ウォーターズの両下院議員(ともに民主、カリフォルニア選出)が中心となって、運動を広げてきた。
ただ、表立って反対運動を支援する日系の政治家は、今日までいなかった。アメリカ日系社会のシンボルともいえるミネタ氏の応援を受けたことで、さらに大きな政治的プレッシャーをかけられれば、運動に弾みがつく。
ミネタ氏は、23日朝にチュー議員と話しあったといい、ハリス司法長官とも近日中に話をして、「司法省がこの問題にどう対応しているのか」突き詰める意向だ。
敬老を守る会のジョン・カジ氏は、ミネタ氏が支援を表明したことについて、本誌の取材に対し、「ミネタ氏は、日系アメリカ人として最もランクの高い人物で、非常に幅広い影響力をもっている。その彼が、ハリス司法長官に直接電話すると約束してくれた。敬老の入居者たちには強力な支援者がついているのだということを、ハリス司法長官が理解してくれると期待している」と話した。
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ミネタ氏は、演説後に、報道陣の質問に答えた。ミネタ氏との、一問一答は以下の通り。
ーーなぜ「敬老を守る会」を支援すると決めたのですか?
彼らの努力に、私の力を貸したいと思ったからです。(反対派が)売却を止められるかどうかはわかりませんが、そう願っています。なんであれ、敬老の居住者のために、調整がなされるべきです。それよりもっと重要なのは、将来的に入居の対象になる人たちに施設が対応できるかどうか、ということです。このような(高齢者向けの)居住施設をつくるのは、とても難しいことで、こうした住居は減っています。ですから、なんらかの調整が行われることを期待しています。

敬老売却反対派への支援を表明した後で、報道陣の質問に答えるノーマン・ミネタ元運輸長官
Photo © Mirei Sato
ーー敬老ヘルスケアの理事会にはコンタクトしましたか?
まだですが、これからするつもりです。私の友人の一人が理事会のメンバーで2〜3週間前に話しましたので、これからほかのメンバーとも話ができるか試みるつもりです。
ーー敬老の施設を訪問したことはありますか?
敬老がどこにあるかは知っていますが、中に入ったことはありません。しかし私はサンノゼで、住宅都市開発省(HUD)の援助を通して、日系コミュニティーの高齢者の居住施設をつくるのに関わりましたので、よくわかっています。シアトルの団体が高齢者の居住施設をつくるときも支援しましたし、ほかのコミュニティーでシニア・ハウジングの問題に携わってきました。ただ、閉鎖するというケースには今まで立ち合ったことがないので、助けたいと思っています。
ーーハリス司法長官には、いつ連絡しますか?
次の月曜か火曜に、時間を見つけて彼女に電話するつもりです。
ーー司法長官は、売却認可の決断を覆す(reverse)ことは、法的にはできない、と言っていますが?
彼女は、再開(reopen)することはできない、と言っています。でも、私はクリントン大統領のもとで商務長官を、ブッシュ大統領のもとで運輸長官を務めて、その間、たくさんの扉が開かれるのを実際に見てきました。「できません」と言われたときでさえ。ですから、トライしますよ。
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敬老・売却問題に関するフロントラインの過去の記事はこちら:
⚫︎2016年1月16日「反対派が300人集会、非営利団体を結成、司法長官は『対話と交渉』提案も」
⚫︎2015年12月3日「ショーン・ミヤケ・敬老シニアヘルスケアCEOにインタビュー」
⚫︎2015年11月26日「反対派集会に500人、経営陣の辞任要求、政治的駆け引きへ」
⚫︎2015年11月23日「経営陣と反対派、相違広がる、今夜タウンホール集会、連邦議員も出席」
⚫︎2015年11月13日「反対派が11月23日、リトル東京でタウンホール集会を開催」
⚫︎2015年11月10日「新局面! 司法長官『売却撤回せず』、反対派『断固阻止』で11月下旬タウンホール開催へ」
⚫︎2015年11月6日「カリフォルニア選出連邦下院議員16人がハリス州司法長官に陳情書を提出」
⚫︎2015年11月1日「敬老を売るな! 5000人以上の署名集まる」
⚫︎2015年10月26日「反対署名集め、ロサンゼルス日系コミュニティーが運動開始」
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