第48回 それぞれの進路

文&写真/福田恵子(Text and photo by Keiko Fukuda)

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9月、ニナは市内で唯一の公立高校レドンドユニオン・ハイスクールに進学する。アメリカでは高校までが義務教育なので、私立に行ったり、市外に越境したりしない限り、小学校から高校までほぼ同じ顔ぶれの友達と学校で学ぶことになる。

ニナの幼馴染のシドニーも、てっきり同じ高校に通うのだと思い込んでいた。中学の卒業式の後、シドニーは自宅で子どもだけのパーティーを開いた。ニナを含む10人ほどの仲が良い男女が招待されて夜の11時までゲームで盛り上がった。私はそれも中学卒業記念のお祝いだと受け止めていた。しかし、その後、ニナが何気なく「シドニーは別の高校に行くから」と口にした。「どういうこと?」と聞くと、「お父さんが以前教えていたサイエンスとマスに強いハイスクールに進学する」との返答。すぐにピンと来た。カーソンにあるカリフォルニアアカデミー・オブ・マスマチックス・アンド・サイエンス(略称CAMS)のことだ。そうか、あれはシドニーが自ら企画した送別会だったのかと遅まきながら理解した。

CAMSはその名の通り、数学と科学に力を入れた高校で、公式サイトのミッションステートメントには「今後ますます進化していくグローバルで技術的な社会に思慮深く行動力に満ちた人材を送り出すことを目的とし、大学進学に有益な革新的なカリキュラムを提供する」とある。

CAMSに願書を申請するためには、成績面での要件が課される。特に数学と科学の中学での成績はB以上でないと受け入れないとある。単位さえ修得すれば高校に進学できる、普通の公立とは一線を画す優良校なのだ。実際、USニュース・アンド・ワールドレポートが発表しているハイスクールランキングの最新版で、同校はカリフォルニア州で10位にランクインしている。全米レベルでも100位。マイノリティである生徒の割合は88%とある。いわゆる少数民族のこと。シドニーの父親は白人で、母親はフィリピン系アメリカ人だ。両親ともに学校行事にはよく参加していたし、シドニーの母親は子どものモチベーションを高めるために、ニナも誘ってUCLAの教授に会いに連れて行ってくれたこともある。教育熱心なのだ。

環境と友人が将来を変える

さて、ニナの同級生がもう1人、市外の高校に進学する。互いにスリープオーバーするほど仲のいいサマンサ。彼女の兄も通ったダヴィンチ・スクールという、エルセグンドにある高校で、ここもCAMSと同じく、大学進学に力を入れたカリキュラムで知られる。2008年創設と歴史は浅いが、2015年度の卒業生は全員が大学に進んだと公式サイトで紹介されている。兄、サマンサ本人と続けて進学するのは「兄姉が通った実績があれば、入学が許可されやすい」から。そしてサマンサの下に控える弟もまたダヴィンチに進ませたいと、親は幼い頃から子どもたちに言い聞かせていたらしい。

また、知り合いのお嬢さんは、ローンデールにあるエンバイアロンメント・チャーター・スクールに通っている。ここも生徒の多くが大学に進学する優良校で、「モチベーションの高い友達に囲まれて、本人はいい刺激を受けている」と母親が誇らしげに話していたのが印象的だった。

確かに、どんな環境で学ぶか、どんな友人と出会うかによって将来は少なからず影響を受ける。市内に2つある中学から生徒が集まってくる高校に進むニナ。つまり、生徒の半数が顔見知りとは言え、高校は本人にとっては新しい環境。新たな出会いもあるだろう。引き続き、娘の学校生活を見守りたい。

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福田恵子 (Keiko Fukuda)

福田恵子 (Keiko Fukuda)

ライタープロフィール

東京の情報出版社勤務を経て1992年渡米。同年より在米日本語雑誌の編集職を2003年まで務める。独立してフリーライターとなってからは、人物インタビュー、アメリカ事情を中心に日米の雑誌に寄稿。執筆業の他にもコーディネーション、翻訳、ローカライゼーション、市場調査、在米日系企業の広報のアウトソーシングなどを手掛けながら母親業にも奮闘中。モットーは入社式で女性取締役のスピーチにあった「ビジネスにマイペースは許されない」。慌ただしく東奔西走する日々を続け、気づけば業界経験30年。

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