[敬老・売却問題] 反対派が300人集会、非営利団体を結成、司法長官は「対話と交渉」提案も

文&写真/佐藤美玲(Text and photo by Mirei Sato)

 ロサンゼルスで日系高齢者向けの老人ホームなどを運営する非営利組織「敬老シニアヘルスケア」(通称「Keiro」)が、営利企業パシフィカ社(Pacifica Companies, LLC)に施設を売却しようとしている問題で、反対派市民でつくる「敬老を守る会」(Save Keiro)が、1月14日、政治集会を開いた。

1月14日、ガーデナで開かれた「敬老を守る会」の集会。約300人が集まった Photo © Mirei Sato

1月14日、ガーデナで開かれた「敬老を守る会」の集会。約300人が集まった
Photo © Mirei Sato

 会場は、ロサンゼルス南部ガーデナにあるキリスト教会。敬老が運営する施設のひとつ「サウスベイ敬老ナーシングホーム」の目の前だ。

 反対派が集会を開くのは、昨年11月23日にロサンゼルスのダウンタウン・リトル東京で500人規模のタウンホールを催して以来、となる。
 高齢者を中心に約300人が集まり、売却阻止をめざして運動を続けていく意志を確認した。

 守る会を全面支援する連邦下院議員、マキシーン・ウォーターズ(民主)とジュディー・チュー(民主)の2人が、集会の開催に尽力した。そのため、日系コミュニティー以外からの参加者も目立ち、「これは高齢者や低所得者の人権侵害の問題だ」と捉えて、連帯を表明する人もいた。

 集会の冒頭、守る会の中心的メンバーで医師であるタケシ・マツモト氏が、売却撤回と公聴会開催を求める署名が、すでに1万7000人以上集まったと発表した。「いまも毎日のように患者さんが署名をもってやってくる」と話した。

 守る会は、非営利組織(Non-Profit Organization)の発足を申請していたが、1月13日に正式に認可がおりたという。
 これによって、支援者から寄付金を集めたり弁護士の支援を受けたりすることが、容易になる。守る会のもとには、すでに約4万ドルの寄付が集まっているという。

「敬老を守る会」のメンバーと支援する議員らは、あらためて「売却阻止」の目標を確認した Photo © Mirei Sato

「敬老を守る会」のメンバーと支援する議員らは、あらためて「売却阻止」の目標を確認した
Photo © Mirei Sato

 また、ウォーターズ議員の紹介で、人権問題や高齢者問題などを専門にする大手の法律事務所などが、売却反対運動を法的な側面から支援していくことも決まった。
 支援するのは、「California Advocates for Nursing Home Reform Organization」「Bet Tzedek」「Gibson Dunn and Crutcher Law Firm」「Legal Aid Foundation of Los Angeles」の4団体だ。協力して、敬老の施設の入居者らを守るため、売却にからむ問題点を調査していくという。

 一方で、公聴会を開かないまま敬老の売却を許可したカリフォルニア州司法省に対する、政治的なプレッシャーも、水面下で進んでいる。

 守る会の主要メンバーとウォーターズ議員は、昨年11月24日に、カマラ・ハリス州司法長官の代理として、この問題を担当するタニア・イバネス司法長官補佐を含む4人と面会した。
 イバネス氏らは、守る会が指摘した売却プロセスの不透明さや疑問点について、それぞれに返答するとしたものの、その後も大きな進展はなく、売却認可とそのプロセスは合法で適切だったという立場は変えていない。

 しかし、反対運動がおさまらないことや、ウォーターズ議員の働きかけなどが功を奏したのか、司法省側にじゃっかん態度の変化が出てきたようだ。

 守る会と州司法省のやりとりは、これまでイバネス氏がとりしきっていた。ところが1月12日になって、ハリス長官が初めて、直接、敬老を守る会の代表、チャールズ・井川氏に電話をかけてきた。

 電話会談で井川氏は、司法長官に対して、あらためて守る会の主張と要望を伝えた。
「敬老の売却は断じて許さないというのが『守る会』の立場で、それは最初から現在まで変わっていない。司法長官には、あくまで売却の破棄を期待している」「目的の実現に向けてあらゆる手段を講じる、という考えのもとに準備中だ」と話したという。

 これに対してハリス長官は、「この問題が、差し迫った急を要する案件であることは理解した。ただ、スタッフを動員して調べたが、売却認可の決定をくつがえすことは、現行の法律のもとではできない」と、あらためて説明したという。

 その上で、「問題を解決するために、司法長官として、関係者間の対話の実現を図り、交渉に向けての場を設ける用意はある」と提案したという。

 守る会では、こうした提案が具体的にあった場合、どのように対応すべきか、近日中に検討する方針だ。

「敬老を守る会」が配ったビラを手に、熱心に耳を傾ける参加者 Photo © Mirei Sato

「敬老を守る会」が配ったビラを手に、熱心に耳を傾ける参加者
Photo © Mirei Sato

 敬老の経営陣はかねてより、エスクローは1月下旬にも終了する予定、と公表している。その通りに進んでいるとすれば、売却を阻止する時間はあまり残されていない。
 守る会は、「それでも闘いは続けていく」としている。

 1月23日には、「コミュニティーの声を聞く」と題して、再び反対集会を開く。ダウンタウン・リトル東京の、センテナリー・ユナイテッド・メソジスト教会が会場になる。
 敬老の施設の入居者や家族、施設で働くスタッフやナースなどが、売却に反対する理由や不安、疑問などを表明する場にしたいという。

⚫︎「敬老を守る会」のウェブサイト
savekeiro.org(英語)
jp.savekeiro.org(日本語)
⚫︎敬老を守る会主催 “Community Speak Out”
1月23日(土)1〜4pm
Centenary United Methodist Church (300 S. Central Avenue, Los Angeles, CA 90013)

⚫︎「敬老シニアヘルスケア」
公開している売却に関する経緯など
www.keiro.org/updates

敬老・売却問題に関するフロントラインの過去の記事はこちら:

⚫︎2015年12月3日「ショーン・ミヤケ・敬老シニアヘルスケアCEOにインタビュー」
⚫︎2015年11月26日「反対派集会に500人、経営陣の辞任要求、政治的駆け引きへ」
⚫︎2015年11月23日「経営陣と反対派、相違広がる、今夜タウンホール集会、連邦議員も出席」
⚫︎2015年11月13日「反対派が11月23日、リトル東京でタウンホール集会を開催」
⚫︎2015年11月10日「新局面! 司法長官『売却撤回せず』、反対派『断固阻止』で11月下旬タウンホール開催へ」
⚫︎2015年11月6日「カリフォルニア選出連邦下院議員16人がハリス州司法長官に陳情書を提出」
⚫︎2015年11月1日「敬老を売るな! 5000人以上の署名集まる」
⚫︎2015年10月26日「反対署名集め、ロサンゼルス日系コミュニティーが運動開始」

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佐藤美玲 (Mirei Sato)

佐藤美玲 (Mirei Sato)

ライタープロフィール

東京生まれ。子供の時に見たTVドラマ「Roots」に感化され、アメリカの黒人問題に対する興味を深める。日本女子大英文学科アメリカ研究卒業。朝日新聞記者を経て、1999年、大学院留学のため渡米。UCLAアメリカ黒人研究学部卒業・修士号。UMass-Amherst、UC-Berkeleyのアメリカ黒人研究学部・博士課程に在籍。黒人史と文化、メディアと人種の問題を研究。2007年からU.S. FrontLine誌編集記者。大統領選を含め、アメリカを深く広く取材する。

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