愛称・略称は旅の新しいカギ〜バージニア州〜

文&写真/石井光(Text and photo by Akira Ishii)

アメリカの各州には愛称がある。そしてそれは、その州の自然や歴史などに由来することが多い。最初に独立宣言を批准したデラウェア州は“The First State”、いつも光溢れるイメージのフロリダは“The Sunshine State”、金脈を求める人たちが集まりゴールドラッシュに沸いたカリフォルニアは“The Golden State”など、一度は耳にしたことがあるだろう。

その一方で、「I ♥NY」「Sweet Home Alabama」「Georgia On my Mind」など、州や市の観光に直結するキャッチコピー(英語ではSloganと呼んでいるようだ)も数多くある。2018年に私が目にした愛称や略称はバージニア州のものが多く、州のキャッチコピーである「Virginia is for lovers」はとりわけ印象深く残っている。今回は、南部の主力州、バージニア州をご紹介したい。

Virginia Beach, VA

バージニアビーチのネプチューン像

私が通勤するニューヨーク近郊の駅に、1枚のポスターがあった。ほぼ無地の鮮やかなパステルブルーのど真ん中に、新鮮な殻付きの生ガキの写真。どれどれと見てみると、そこには“Virginia Beach, VA”とだけ書いてあった。何とも気になるポスターだった。

そこで、バージニアビーチのことを調べてみた。州東部の大西洋に面する都市で、約45万人が住み、軍港で栄えるノーフォークなどの周辺地域を合わせると、人口約145万人。全米33番目の都市規模だ。

このバージニアビーチの一番の観光アトラクションは、なんといっても雄大な大西洋。美しいビーチが60キロ以上続く東海岸屈指のリゾート地で、ビーチに沿って高級ホテルからお手頃価格のホテルチェーンまで、500軒以上が林立している。どこに泊まるにしても、オーシャンフロントやオーシャンビューで大西洋を眺められる。ほとんどが東向きなので、部屋から朝日を眺めるには絶好だ。

ビーチのほぼ真ん中あたりにあるネプチューン像を目印に、ボードウォーク(実際はコンクリートでできている)をのんびり歩くのが気持ちいい。ビーチや大通り沿いにはホテルと同じくらい数多くのシーフードレストランがあり、ポスターに載っていたような新鮮なカキが楽しめる。国の史跡に指定されている、「The Cavalier」というとてもロマンチックなホテルもある。バージニアビーチは、州のキャッチコピーを体現しているようだ。

国の史跡「The Cavalier」

RVAとVCU

ジェファーソン・デービスの銅像

バージニア州の州都はリッチモンド。南北戦争の時代には南軍の首都だった場所で、やはり歴史や政治の匂いがする。戦争、奴隷、人種差別という負の歴史もあり、そう遠くない過去、この町は全米でもっとも治安が悪い都市ともいわれていた。その頃はとても「Virginia is for Lovers」と呼べるような場所ではなかったのだろうが、近年は製造業、金融、交通など、各種産業の発展とともに人も集まっている。

町の愛称も「RVA」(Richmond, VA)に変わり、洗練された町へと変貌を遂げている。学業でもスポーツでも近年大活躍しているVCU(Virginia Commonwealth University)は、その一つの象徴でもあるようだ。RVAのスローガンの一つには「Easy to Love」があり、州のキャッチコピー同様、ここにもloveが入っている。

アーサー・アッシュの銅像

RVAとなっても、この町の一番のアトラクションは南部の歴史。Monument Avenueには、南軍の大統領ジェファーソン・デービス、そして、差別の残る時代に黒人でありながら白人のスポーツともいえるテニスで大きな功績を残したアーサー・アッシュの銅像などが立ち並ぶ。

RVAのもう一つの魅力はグルメ。Farm to tableを標榜する味自慢のレストランが数多くあり、南部ならではのおもてなしとともに、創意工夫されたバージニア産の新鮮食材が楽しめる。地元で大人気の「Lunch and Supper」というレストランでは、地ビールとともに自家製のバージニアハムやチーズなどが楽しめ、デートにもおすすめだ。

「Lunch and Supper」でゆったり食事を

UVAとBlue Ridge Parkway

ジェファーソンの私邸「モンティッチェロ」

そして、最後は西部の歴史都市シャーロッツビル。ここは第3代大統領トーマス・ジェファーソンが創立した名門私学UVA(University of Virginia)、同じくジェファーソンみずからが設計した私邸「モンティッチェロ」がある。歴史好きには、この2つの世界遺産はもちろん見どころだろう。

この辺りはワイナリーが数多くあることで、州内外のワイン愛好家も引き寄せる。意外なことに、バージニア州はワイナリーの数が全米第5位、個性的なワインの産地だ。そして、ワイナリーや世界遺産を見物した翌日には、シェナンドー国立公園内にあるBlue Ridge Parkwayのドライブを楽しみたい。南北に150キロ以上続く山脈の尾根から、両サイドに見える美しいバージニアの景色は美しくロマンチックでもある。どれもカップルでめぐるにはピッタリの場所に思えた。

Blue Ridge Parkwayに広がる美しい自然

Virginia is for Travel Lovers

直感で旅先を決める私は、旅先で取ってきた地図やパンフレットをあとで読み返すことが多い。州の地図を見ると、バージニア州はカギ先のギザギザを上に向け、まっすぐな部分を下にしたような変わった形をしている。そこには、今回ご紹介したCoastal Region(バージニアビーチ)と Central Region(リッチモンド、シャーロッツビル)だけでなく、ほかにもWashington, DCの周辺地域や手つかずの自然などを擁する8つの地域がある。

バージニア州のパンフレットを見ていると、「Virginia is for Beach Lovers」「Virginia is for food lovers」「Virginia is for Wine lovers」「Virginia is for Travel Lovers」などの文字が。そう、バージニアのキャッチコピーは恋人やカップルのためではなく、「○○好きのためのバージニア」という意味だった。

まだまだ奥深い魅力があるだろうこのバージニア州を、愛称や略称というカギを使って、改めて探ってみたいと思う今日この頃である。

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石井光 (Ishii Akira)

石井光 (Ishii Akira)

ライタープロフィール

旅行会社勤務。広島出身。在米12年。ジョージア、ウィスコンシン、ニュージャージー、テキサス、カリフォルニア、ワシントン州を経て、現在2度目のニュージャージー生活。その間アメリカの都会から地方まで40州200都市以上を訪問。あるときは真正面から、またあるときは裏側から、アメリカ各地をご紹介します。

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