第33回 ドンペリに異変?レアものシャンパンが市場に溢れる珍現象

文&写真/斎藤ゆき(Text and photos by Yuki Saito)

仏本社にてクリスタルを味わう

仏本社にてクリスタルを味わう
Photo © Yuki Saito

 ドンペリの愛称で親しまれている高級シャンパン、ドンペリニョンが、最近大量生産されている。アメリカの販売価格が平均150ドル、日本でも一万五千円という高級品に「親しんでいる」のは、もっぱら金離れの良い芸能人や、金遣いの荒いクラブ族だそうだが、ご贈答用にこの「特別な」高級品を買う消費者も少なくないそうな。ちなみに、ドンペリに代表される特級シャンパンは、「プレスティージ・キュベ」と呼ばれ、まさに作り手の『威信PrestigeをかけたブレンドCuve』といわれるレアもの。通常であれば、特にできの良い年だけ作られるヴィンテージもので、10年に1~3回位の割合で作られてきた。

 ここでちょっとシャンパン常識のおさらい。通常シャンパンはNV(=non-vintage)という2文字がついているが、これは「(ブドウの)製造年不特定」という意味。以前の記事でも取り上げた通り、シャンパンは作り置いた数年間のワイン(古酒)と、その年に採れたブドウで作るワインをベースに、作り手のスタイルに合わせてブレンドするしろもの。なぜ、数年ものワインを混ぜるかというと、北の寒いシャンパン地方では、ブドウの熟成度合いがまちまちなので、数年寝かして熟成したワインをブレンドして味わいに複雑さを加えるわけだ。

 ちなみにドンペリの作り手は、最大手のモエ・テ・シャンドン(Moet et Chandon)で、同じく人気のルイ・ローデレール(Lous Rorderer)社のクリスタル(Crystal、250ドル)、ボランジェ(Bollinger)がつくるグランダネ(Grande Annee、150ドル)、ブーブ・クリコ(Veuve Clicquot)のグラン・ダム(Grande Dame、150ドル)なども有名だ。シャンパン・ハウスは、毎年作るNVの他に、良い年だけ製造するヴィンテージ・シャンパンと、そのヴィンテージの中でも最良のブドウだけをブレンドして作るプレスティージ・キュベ(PC)の3段階の質分けがある。故にPCのことを、業界ではTete de Cuveつまり「ブレンドの頭=頂点」と位置づける訳だ。

シャンパン作りは職人芸。昔ながらのブドウプレス機を使う

シャンパン作りは職人芸。
昔ながらのブドウプレス機を使う
Photo © Yuki Saito

 ところが90年代以降、滅多に作れないはずのPCが毎年連続して市場に出まわり、更にはシャンパン作りの敵と言われる「暑い年」の2003年にも作られるという現象が起きている。シャンパンの持ち味は、高い酸味からくるキレ。異常に暑かった2003年は、糖分が上がり過ぎて酸味が落ちるという問題の年で、フランスワイン全般、特にシャンパンの出来映えが懸念された。

 具体的なデータによると、ドンペリは2003~05年、クリスタルは2005~07年、グランダネは2002、2004~05年と連荘で作られてきた。勿論、量産したからといって、高価格は変わらない。何故、これほど多くのPCが製造できたのだろうか? 作り手側の説明として、地球の温暖化現象による気温の上昇で、ブドウの熟成度が年々上がってきたこと、テクノロジーの進化でブドウの病原が広がる前に、認知出来るようになり、収穫高が向上したことがある。ある生産者は、今後PCが発売される割合は10年に7~8年と予言するほどだ。

 多産されたPCは、中国やロシアなどの「新興国」が買い支えてきた。とはいえ、「量産されたPCでは、ありがた味がない」という批判があることも事実だ。その反面、「品質が高ければ、どれだけ作ってもよいのではないか?」という反論もある。その中で、素晴らしいヴィンテージ年といわれた2009、10、11年でも製造販売を行わず、収穫したブドウをリザーブ用のワインにまわしたレアものシャンパンメーカーのサロン(Salon)や、ヴィンテージ多発の2012年にヴィンテージを作らなかった最高級メーカー、クリュッグ(Krug)など、職人気質のハウスも多々存在する。

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斎藤ゆき (Yuki Saito)

斎藤ゆき (Yuki Saito)

ライタープロフィール

東京都出身。NYで金融キャリアを構築後、若くしてリタイア。生涯のパッションであるワインを追求し、日本人として希有の資格を数多く有するトッププロ。業界最高峰のMaster of Wine Programに所属し、AIWS (Wine & Spirits Education TrustのDiploma)及びCourt of Master Sommeliers認定ソムリエ資格を有する。カリフォルニアワインを日本に紹介する傍ら、欧米にてワイン審査員及びライターとして活躍。講演や試飲会を通して、日米のワイン教育にも携わっている。Wisteria Wineで無料講座と動画を配給

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