物流を制すものはビジネスを制すか?第2回

 年の瀬も迫り、今年もあと数日を残すのみとなった。2016年を振り返って今年の物流関連の10大ニュースを取り上げてみた。一応日本およびアジアから北米向けに限らせてもらった。異論があることも承知の上で、あくまで個人の私見ということでご了承願いたい。

1位 トランプ氏米国大統領に当選
2位 アマゾン 連邦海事局よりNVOCCライセンス取得
3位 邦船三社コンテナ事業統合
4位 韓国の大手海運会社韓進海運経営破綻
5位 アライアンス4から3へ
6位 パナマ運河拡張工事終了 大型船通行可能に
7位 サービスコントラクト締結低調 運賃下落に拍車
8位 船社統合進む
9位 1.8万TEUの超大型コンテナ船 太平洋航路定期就航
10位 ロングビーチターミナル、トラパックターミナル 自動化、無人化進む

 幾つかのニュースは一般紙でも大きく取り上げられたので、ご存知の方も多いと思うが、大半は物流関係者以外にはあまり興味のない内容かもしれない。

 日本はその貿易量の約97%を海上輸送に負っている。原油、天然ガス、穀物などの輸入にはじまり、自動車やその部品、機械や食品を輸出入することで日本経済は廻っている。いわば、海運事業は日本経済のインフラの根幹をなす重要な産業である。しかし、それがあまりに大きすぎるため逆に身近に感じることがない。「近くにあるのに見えないもの なーんだ」、答えは「まつげ」のようなものかもしれない。また「普段は感じないがないと困るもの」は「空気(酸素)」のような存在かもしれない。

(全くの余談だが、この冬、百田尚樹著「海賊とよばれた男」が上映されているが、これを通してオイルや海上輸送に興味をもってくれる人が1人でも増えることを期待したい。)

  そうした一般の人にとって見えにくい物流関係の中で今回は上位1位と2位に触れる。なぜなら1.8万TEUの大型コンテナ船に興味のない人でもアメリカの新しい大統領やアマゾンについては知っているからである。

Eコマースの巨人、アマゾン

 まずはアマゾン。私が語るまでもない世界のEコマースの巨人。長く続く店舗販売というビジネスモデルを一変させ世界中の商品をワンクリックで購入、自宅まで配達するビジネスモデルを確立した一大企業である。(最近同社は実店舗を出店したとのニュースもあるが、これは後日触れたい)

アマゾンは物流界の台風の目になるか?

アマゾンは物流界の台風の目になるか?

 そのアマゾンが米国のFMC(連邦海事局)の承認を受け、NVOCCの資格を取得した。このニュースは物流業界の人にとっては最も大きなインパクトのあるニュースである。
 何故か?アマゾンはアジアの製品を北米地域に出荷する場合、アマゾンというEコマースの入り口を提供し製品を集め出口で個人宅に配送している。しかし入り口から出口までのトンネルに相当する部分は彼らといえども他の荷主同様どこかの物流会社にその製品を預けて運んで貰っていたのである。ゆえに使用する物流会社の運賃とスペックに従わなければならなかった。しかし今回ライセンスを取得したことで大手を振って物流会社の立場で集荷ができるということである。

 NVOCCというのは、NON- VESSEL OPERATE COMMON CARRIERの略で自らは船舶を保有しないが船社同様の責任においてB/L(Bill of Lading・船荷証券)を荷主に発行し貨物の輸送を可能とする資格を持つものの総称である。荷物を預ける顧客の側から見るとその違いははっきりとはわからないが今回のライセンスの取得によりアマゾンのサービスは一段と幅を広げることが可能となる。そしてそれは利用者にとっても大きなメリットを享受できるものとなろう。

次期大統領ドナルド・トランプの影響

 そのアマゾンにとって大きな脅威になるといわれるのが今回米国の大統領に当選したドナルド・トランプ氏である。グローバル展開で大きくなったアマゾンにとって“内向き思考”といわれるトランプ氏の経済戦略は大きな痛手となろう。アマゾンに限らずアメリカと貿易上の関わりを持つ国や企業にとって彼の政策は一面経済の血流を止めるように映るかもしれない。トランプ氏は当選直後にアップルのティム・クック氏にアップルの製品を米国で作るように電話で打診したといわれる。トランプ氏の当選のインパクトはアメリカを代表するアマゾンやアップルのようなグローバル企業ほど大きく、その影響は計り知れない。

 ただ、トランプ氏自身がどこまで知っているのか知るすべもないが、アメリカは本来農業国であり、また、この20年間、彼のビジネスを支える不動産投資やファイナンス、またはIT,およびその関連事業で利益を出し、製造は他国に移し、他国で安く作らせ輸入し消費する、消費中心の国になっている。それにより技術者の育成、技術の継承、技術の集積、蓄積がおざなりになっているともいえる。急ごしらえに今までの消費中心の国から製造を復活させようとしてもその地盤が弱ければ彼のいう“自前”もおぼつかないものとなろう。

 一方、彼は私達が思っている以上に「したたか」かもしれない。彼の強気の発言の背景には、もしかしたら、もうすでに熟練の技術者の匠の技や技術の集積などを全く必要としない、どんなものでもボタン一つで製造できる超進化した何かがあるのかもしれない。かつてコンピューターの技術や知識が全くなくてもコンピューターを一般の誰にでも使える身近な存在に変えたアメリカの技術者ビル・ゲイツやスティーブ・ジョブスのように既成概念を一変させるだけのパワーをもつ何かを彼はその懐に隠し持っているからかもしれない。彼の今後の動向には興味がつきない。その意味で堂々の第1位にランクした。

ロサンゼルス港に停泊する世界最大のコンテナ船

ロサンゼルス港に停泊する世界最大のコンテナ船

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赤岩寛隆 (Hirotaka Akaiwa)

赤岩寛隆 (Hirotaka Akaiwa)

ライタープロフィール

外航海運会社で20年以上にわたり北米定期航路の集荷営業に従事。北米駐在を経て2013年9月、北米唯一の海運、港湾、物流情報発信会社SHIPFANを設立。
「日本海事新聞」紙上に「ロサンゼルス便り」、 ロサンゼルスのフリーペーパーに「物流時報」を定期掲載するほか、物流コンサルティング、物流セミナー、港湾ツアーの開催、輸出入のマッチング業務を手がけている。ロサンゼルス港に「コンテナ物流研究所」を開設。

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